「常に自分が指した手が最善手」—羽生善治さん。

Interview 羽生善治

好きなことに対して、期待も不安も抱かない。

――羽生さんはずっと将棋の世界でご活躍されていますが、一つのことを続けるコツはありますか?

 好きなことを仕事にするとか、自分に合った会社に入るといったことを考えますが、そこには何らかの期待があるわけですよね。でも実際やってみるとギャップがあるから辛くなって続かないのではないでしょうか。僕が将棋の世界に入ったときは、子どもだったということもありますが、何の期待も不安も、躊躇も迷いもなかった。選ぶ時点で、迷いがあるならそれは本当に好きなことではないんじゃないですか。躊躇いもなくその世界に飛び込んでいくことを自分で選んだならあとは、辛いことや嫌なことがあってもやるしかないですよね。

 今はあまりに情報が溢れすぎているので、過剰な期待や不安を抱いてしまうのだと思います。継続するコツがあるとしたら、展望が見えない先に過剰な期待や不安を抱かず、「今」に集中すること。マラソンで例えると、後1km走ろうと思い続けていたら30km走れたってことがあると思うんです。先のことを考えすぎない方がうまくいく。
 将棋の局面でもあるのですが、先のことを考えすぎると展望が見えなくなって今選ぶ一手がわからなくなる。予測しても大抵はずれますから、先のことは考えないで目の前の一手に集中することですね。一手の小さな違いを見極めて、今度は打った一手の半分の違いを見極めて、次に五分の一の一手の違いを見極める。「一手を争う」というのですが、勝負はあるときの一手ではなく、将棋での勝利の道は、その瞬間の一手の選択の積み重ねなのです。ほんの些細な選択で状況は変わっていきます。

良い選択よりも、悪くならない選択をする。

 でも、どちらを選んでも不利という局面もありますね。どちらを選んでも状況がよくならないのなら、状況が良くなる選択ではなく、これ以上悪くならない選択をしていくという視点が必要になってきます。良くしようと思うからその先が不安になったりしてしまう。
良くなると期待するのをやめる、それも一つの選択です。情報が溢れすぎているので、今はそういう客観的な視点を持つことは難しいのかもしれませんけどね。

継続するためには、適当ないい加減さが大事

 ずっと続けていれば、もちろん嫌になることはあります。すべて自分の責任で勝負が決まってくるので誰かのせいにできないプレッシャーもありますし。突き詰めていくと自己否定して、自己嫌悪に陥ることになるんです。それがわかっているので、突き詰めません。考えてもしょうがないので。継続するには、それくらいの適当ないい加減さが大事だと思っています。高田純次さんくらいの。いや、本当に!
僕はあまり先のことを考えていないんです。ずっと将棋を続けていこうとも考えてない。でもきっと続けていくんでしょうね。そもそも継続しよう、という視点がない。無理に継続する必要もないと思いますね。
その瞬間に何を打つか。それだけを考えていればいいので、将棋も続くんだと思います。


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